大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

徳島地方裁判所 昭和48年(ワ)228号 判決

原告 前田重幸

被告 日本電信電話公社

訴訟代理人 大道友彦 安藤文雄 徳元昭一 大川毅 ほか三名

主文

1  原告が被告の職員としての地位を有することを確認する。

2  被告は、原告に対し、金七、七一二、一六七円及び昭和五〇年四月以降本判決確定に至るまで一か月金一一二、七〇〇円の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  この判決は、2項にかぎり、仮に執行することができる。

事  実 〈省略〉

理由

一  被告が、肩書地に本社をおき公社法所定の業務を行う公法人で、四国電気通信局の現場機関として徳島市に徳島電報電話局を有するものであり、原告が、昭和三三年四月に被告に採用され、以来徳島電報電話局施設部第一線路宅内課に勤務していたこと、原告が昭和四四年二月一八日徳島地方裁判所において業務上過失傷害並びに道路交通法一一七条の二及び同法六五条違反の罪により禁錮六月、執行猶予二年の判決の言渡を受け、同年三月五日右判決が確定したところ、被告は、原告が右刑に処せられたことが公社法三一条三号及び就業規則五五条一項五号に該当するとして、原告を分限免職したこと、及び被告は、右免職以後、原告が被告の職員として地位を有することを争つていることは当事者間に争いない。

二  そこで、以下、本件分限免職の効力について検討する。

まず、被告公社の職員の分限免職に関しては公社法三一条に定めがあるが、他に就業規則五五条一項並びに一四九号通達第2・3の(1)及び(4)の各規定(別紙(五)及び(六)参照)が設けられていることは当事者間に争いない。

公社法三一条所定のいわゆる分限制度は、公社業務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的から、同条に定める一定の事由により公社の運営上支障となる職員を公社自体或いは当該の職務から排除する権限を任命権者に与えるとともに、他方、被告公社の職員の身分保障の見地からその権限を発動しうる場合を限定したものである。分限制度のこのような趣旨及び目的並びに右条項に定められた免職事由が処分対象者の行動、態度、性格、状態等に関する一定の評価を内容として定められていることを考慮するときは、分限上の措置をするについて分限権者に裁量の余地があることが認められるが、そこには一定の限界があるのであつて、分限制度の目的と関係のない目的ないし動機に基づく場合、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断した場合、及びその判断が合理性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものである場合には、そこでとられた分限上の措置は、裁量権の行使を誤つた違法のものというべきである。ことに、分限上の措置として免職を選択する場合には、公知の終身を通常とする雇傭の現状のなかで、公社職員としての地位を失ういわば極刑に等しい結果を生ずるものであるから、特に厳密で慎重な運用が要請されるのである。

右の分限制度の趣旨に照らせば、分限免職事由の一つとして公社法三一条一項三号に定められた「その職務に必要な適格性を欠くとき」とは、当該職員の素質、能力、性格等につき公社職員としてふさわしくない属性が認められ、それが簡単には矯正することのできない持続性をもつているため、その者を公社内にとどめておくと公社業務の適正かつ能率的な運営が阻害され、または阻害される蓋然性が認められる場合をいうものと解される。そしてここに確保されるべき公社業務の適正な運営というなかには公社のあり方自体に対する社会的信用の維持ということが含まれる。なぜなら、被告公社は極めて高度の公共性を有する電気通信事業を国内において独占的に担当する政府の全額出資にかかる公法人であつて(公社法一条、二条、五条、公衆電気通信法五条の2)、もちろん、公社の事業の公共性は非権力的な経済活動として国民全体の生活上の便益を増進するための役務の提供であつて、その活動は公権力の行使たる性質を有せず、しかも公社が国家行政機関から完全に分離した独立法人であるから、公社を国家機関に準ずるものと解するは妥当でなく、その職員の勤務関係は私法上の法律関係にすぎないと解すべきではあるが、それにもかかわらず、被告のように極めて高度の公共性を有する公法人であつて、公共の利益と密接な関係を有する事業の運営を目的とする企業体においては、その事業のあり方自体が社会的な批判の対象とされ、その廉潔性の保持が社会から要請ないし期待されているからである。なおまた、分限免職以外に公社から強制的に身分排除される場合として、公社法三三条の定める懲戒免職があるが、これは公社の企業秩序維持の観点から一定の非違行為につき道義的非難を加えるもので、当該職員の個々の行為又は状態を問題とするのに対し、分限免職は公社の能率的かつ適正な業務運営の観点から職務遂行の妨げとなる矯正しがたい属性を有する職員を排除しようとするもので、一定の期間にわたつて継続している状態を問題とする(一定の非違行為が問題となる場合にも、それ自体を問題とするのでなく、それを徴表とする行為者の性格、能力が永続的、矯正不能か否かの観点から問題とする。)のである。したがつて、ある非違行為が強い道義的非難を伴うものであつて、懲戒免職相当と考えられる場合であつても、それが一過性のもので必ずしも行為者の永続性ある属性の発露とみとめられない場合には分限免職の措置はとるべきでないし、道義的非難の程度が軽く懲戒免職を不相当とする場合であつても、当該行為が公社業務の運営上支障となる職員の矯正しがたい属性を徴表していると認められる場合には、分限免職相当として公社から排除されることがあるのである。このような両制度の存在理由の相違によれば、たんに懲戒事由があるにすぎないのに分限上の措置をとり、或いは分限に名をかりて実質的に懲戒処分を行うことは原則として許されないところである。そして、このような継続状態を問題にする公社法三一条一項三号の「適格性」の有無は、当該職員の外部にあらわれた行動、態度に徴してこれを判断するほかないが、その場合、それら一連の行動、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連づけて評価すべく、さらに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素をも考慮して、これらの諸般の要素を総合的に検討して、判断しなければならないのである。

就業規則五五条一項五号の「禁錮以上の刑に処せられたとき」に分限免職しうるとの規定は、公社法三一条三号の趣旨を具体化したものと認むべきであるが、もとより公社職員の身分保障に関する強行規定である同条の前記解釈を制限することはできず、したがつて、禁錮以上の刑に処せられた者を分限免職にすることは常に分限権者の裁量の範囲内にあるとの被告の法律論は採用できない。したがつてまた、別紙(六)記載の一四九号通達の規定も、禁鋼以上の刑に処せられてなお身分存続される場合にとるべき手続を、運用面において明らかにしたにすぎないと解すべきである。

たしかに、公社職員が禁錮以上の刑に処せられた場合は、公社の社会的信用を失墜し、公社職員にふさわしくない素質、性格の発現と認められる場合が多いであろうが、結局はこれを一つの徴表として、さらに前記の如き諸般の要素を総合的に検討して、当該職員に公社から排除しなければ業務運営が阻害されるような永続性のある属性が認められるか否かを判断しなければならないのであつて、前記のとおり、右判断には任命権者の裁量の余地があるが、純然たる自由裁量に委ねられたものでなく一定の客観的基準に照らして決せられるべく、社会通念上著しく妥当性ないし合理性を欠く分限免職は裁量権の行使を誤つた無効のものといわねばならない。

三  そこで、公社職員としての身分を排除しなければ、公社業務の運営に支障となるような矯正しがたい属性が原告に認められるか否かを検討する。

1  〈証拠省略〉並びに弁論の全趣旨を総合すれば、交通事故の急激な増加は、昭和四二、三年ごろすでに重大な社会問題化しており、交通事故に対する社会的非難が日増しに厳しさを増していたこと、被告公社は、わが国有数の車輌保有企業であるため、右の社会情勢に対応して、昭和四二年ごろから、改めて車輌運行管理の厳正化の方針を示し、その旨の通達による指示、日本電信電話公社報による呼びかけ、春秋の交通安全運動への参加などの種々多彩な方法により交通安全の徹底をはかつていたこと、昭和四三年中に別紙(七)記載の事例3の事件において、職員の身分存続を承認した際に、それ以後は、飲酒運転を伴う事故によつて禁錮以上の刑に処せられた事案については、厳格な態度で臨むとの方針が確認されたことを認めることができる。なお、被告は、右の事案については単に厳しい態度で臨むことが確認されただけでなく身分存続の例外を一切認めないとの方針が確立されたと主張するが、肯認するに足る証拠はない。

2  (本件事故発生のいきさつ、その態様及び結果)

(一)  本件事故は、原告が昭和四三年九月二五日午後九時五分頃、呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコール分を身体に保有し、その影響により正常な運転ができないおそれのある状態で、自己の所有する軽四輪貨物自動車を運転し、徳島市徳島町城の内の国道一九二号線立体交差点を、時速約四〇キロメートルで東から西へ向けて進行中、車間距離保持義務及び前方注視義務を怠り、先行する営業用普通乗用車(タクシー)に追突し、その運転手に対し、約三か月の入院加療を要する頸部、腰部の各挫傷を負わせたというものであることは当事者間に争いない。

(二)  〈証拠省略〉を総合すれば、次の事実を認定することができる。

(1) 原告は事故当日、勤務終了後の午後六時頃から、同僚と徳島市内の料理店で約一時間半にわたつて日本酒をコツプ(約一合)に三、四杯飲んだ後、同人と別れ、バスで同市沖ノ洲の自宅に帰りテレビを見ていたところ、勤務先の妻から迎えに来てほしいとの電話があつた。原告は午後九時を少し過ぎた頃、酒の影響も残つていたが、飲酒後時間もかなり経過していたので、運転には殆んど支障ないものと考え、豪雨の中を、自動車を運転して、妻の勤務先である同市西大工町所在の徳島電報電話局に向う途中、本件事故が発生したものである。なお、原告の妻は、当時、徳島局前の西大工町バス停から徳島市営バスに乗車し、大堤バス停で下車し、そこから一〇〇メートル足らずの距離にある自宅に帰るという路線で通勤していたのであるが、事故当日は午後九時以降においても、大堤バス停まで直行又は徳島駅乗り替えで四便のバスが運行されていたから、原告の車を利用しなくても、帰宅には支障がなかつた。

(2) 本件事故は、立体交差点の下り坂を降り切る直前の地点で生じた追突事故であるが、原告が先行車との車間距離を一〇メートルしかとつていなかつたことと、もの思いにふけつていて前方注視が不完全になつたため、先行車が水たまりを越そうとして減速したのを約三・八メートルに迫つてようやく気付き、急停車したために発生したものである。

以上の事実を認定することができる。〈証拠省略〉うち右認定に反する部分は右各証拠に照らして採用せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。被告は、本件事故の原因につき、原告が飲酒酩酊のためブレーキ操作をなしえなかつたためであると主張する。たしかに〈証拠省略〉によれば、事故直後の警察官の外観の判定では、原告の言葉遣いや動作などが一見して酒に酔つていると分る程度のものであつたことが認められ、また時速四〇キロメートルの場合の制動距離が通常一一メートルであるのに、〈証拠省略〉によれば、ブレーキをかけてから一八・五メートル進行して停つていること、先行車のほうが原告の車より大きいこと、先行車も一四メートル進行してからとまつていることを認めることができる。しかしながら〈証拠省略〉によれば、刑事判決は酩酊運転によるブレーキ操作の不能を過失の内容としておらず、これに〈証拠省略〉を勘案すれば、右認定の事実だけでは、酪酊に起因するブレーキ操作の不能によつて生じた事故であるとの被告の主張事実を肯認するに足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

3  (本件事故後の経過)

〈証拠省略〉並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は事故発生後直ちに警察に法定の通知をしていること、当夜の警察での取調べに対する態度が悪いということで原告の直属の課長が呼び出きれたこと、しかしながら、単に原告の態度が悪かつたというだけでなく、取調べが長くかかりそうなので帰つてよいとの係官の言葉に従つて、原告が帰つたところ、原告の取調べを担当していた警察官がこのことを知らなかつたという手違いも手伝つていたこと、事故の翌日、原告は直属の課長に対して、飲酒運転をしていたということを含めて事故についての報告をしたこと、また同日、電話局と電報局の組合が統合されてから第一回目の統合組合大会が開かれ、組合活動家であつた原告は、この大会で分会長に選任される予定となつていたところ、本件事故を理由に立候補を辞退しようとしたが他に適任者がいないということで容れられず、大会の席上で事故の内容を報告した上で投票の結果分会長に選ばれ、そのころかかえていた懸案解決の目途が一応ついた昭和四四年一月一〇日に辞任するまで役職を勤めたこと、事故後、所属課長から、所属局長に対して報告及びあいさつを行うよう何度も示唆されていたが、分会長を辞任した後の昭和四四年二月五日になつてはじめて、局長に直接会い、事故の報告とあいさつをしたこと、このように局長への報告等が遅れたのは、組合分会長の立場にあつた原告としては、組合交渉の相手方である局長に対して、個人的な事柄とはいえ、直接会つて話しにくいという気持を持つていたためであること、原告は、昭和四四年一月一四日に、顛末書を提出したが、それは事故の経過と結果とを簡単に記載しただけのものであつて、その記載からは原告の改悛の情はうかがえないこと、しかしながら、このような記載をしたのは、所属課長から、事故報告をするようにといわれただけで、事故に対する心境などを書くようにはいわれなかつたためであること、同年二月一日被害者との間に示談が成立し、治療費、休業補償など被害者の求めた金額は完済され、被害者は原告を宥恕していたこと、本件事故については新聞報道、テレビ放映などマスコミによる報道及び批判がなかつたこと、本件分限免職がなされるまでに、原告に対して寛大な措置を求める嘆願書への署名の数は、約八〇〇名いた徳島電報電話局の組合員(職員もほぼ同数)のうちの六〇〇名に達したことを認定することができる。

4  (原告の経歴及び勤務成績)

〈証拠省略〉を総合すれば、原告は昭和三三年四月、被告公社の職員として採用され、同年一二月に線路宅内課の仕事を担当するようになつて以来、本件分限免職までの間、同課の現場要員あるいはデスク要員として勤務してきたものであるが、原告の勤務成績、態度は、どちらかと言えば無口で真面目であり、人一倍職務熱心というわけではないが、必要な限りのことは十分に行つていたし、服務規律は守り、また技術革新の著しい同課の取扱う器機類に対する専門知識と技術については人並み以上にすぐれたものがあり、総合判定すれば、他の職員に比べて特に優秀というのではないが、他の職員より劣るというものではないこと、原告は組合活動には熱心で、昭和三四年には全電通徳島電話局分会の執行委員に選任されたのをはじめとして、書記長、副分会長などを経て昭和四〇年には分会長にも選任され、ついで、昭和四二、四三年にも引きつづいて分会長に選任され、右分会が電報局分会と統合した後の組合大会において、前記のとおり、事故を理由に辞退しようとしたにもかかわらず、再び分会長に選任されたものであること、このように組合員間での信頼は厚く職場における人間関係について不都合は認められないこと、原告の所属していた第一線路宅内課では、昭和四二年一二月から昭和四三年五月まで自発的参加を建前とする朝の安全会を実施していたが、約四〇名いる課員のうち、原告一名のみがこれに参加していなかつたこと、この安全会について、組合は軍隊式のものであり、労働時間の実質的な延長になるとして反対しているのであるが、組合の分会長の立場にあつた原告は、組合の意向に従つて安全会に欠席したものであること、なお、交通事犯の前歴としては昭和三七年ごろ一時停止違反を犯しただけであることを認定することができ、右認定に反する証拠はない。

5  (他の事例との比較)

(一)  昭和四一年から同四八年八月までの間に、公社職員が交通事故を起こして禁錮以上の刑に処せられた事例が全国で五〇件あり、そのうち別紙(七)記載の一九件が飲酒運転を伴う事例であるところ、その身分上の措置の内訳は、懲戒免職四件(事例1、2、10、12)、分限免職が二件(事例6、8)、辞職の承認が一二件(事例4、5、7、9、11、13、14、15、16、17、18、19)身分存続が認められたのは一件(事例3〕のみであることは当事者間において争いない。

被告は、公社職員の間では禁錮以上の刑に処せられた場合には、原則として公社から身分排除されることが、常識となつていたと主張し、この主張に沿う〈証拠省略〉(いずれも公判調書)の証言記載があるが、これらは処分する側の者が意見ないし感想を述べたにすぎないと認められ、また本件分限免職を意外とする旨の〈証拠省略〉(所属局長の公判調書)の証言記載があるのだから、前記証言記載のみをもつてしては被告の主張事実を認めるに足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

(二)  右の全国事例のうち四国通信局管内の事例20の事件の内容が別紙(七)20記載のとおりであること(居眠り運転による事故)並びに同事件及び事例3の事件においては、禁錮刑に処せられた職員の身分存続が認められていることは当事者間に争いなく、〈証拠省略〉によれば、右各事例において身分存続を承認した理由は、事例20については、「この事故は個人の車輌を勤務時間外に運転中惹起したものであり公社業務と直接関係がない」、「右車輌の運転は友人である被害者の要請により己むを得ず同人にかわつて行なつたもので、改悛の情が顕著であり、被害者との示談を了している」、「同人の勤務成績はきわめて優秀であり、職員間の信望も厚く、非常に優秀な若手職員として将来を嘱望されている」というものであり、事例3については「個人の車輌を勤務時間外に運転中惹起した事故であり公社業務と直接関係がない」、「右事故の原因は、当該職員の飲酒運転によるものであるが、被害者も当時相当酒に酔い突然道路中央寄りへ進入したもので、被害者にもかなりの過失があると考えられる」、「治療期間については、被害者が故意に長引かせたと考えられるふしがある」、「当該職員は、人身事故を惹起したことを深く悔い、被害者の入院中の看護などに最善を尽し、被害者に対し治療費、慰籍料など合計金一三〇万円余を支払い示談も了して改悛の情顕著である」、「報道機関による報道は地方紙の夕刊の片すみに小さな記事として掲載されたにすぎず公社の体面を著しくけがしたことになるとは考えられない」、「職員の勤務態度は積極的で責任感も強い上、年少者をもよく指導し職員間の信望も厚い」、[当該職員の交通事故を契機として高知県下の全線路職員は飲酒運転はしないと強力に誓い合つており、身分存続の特別扱いが認められれば、公社の安全管理施策面にも大いに反映されるものと期待される」というものであることを認定することができる。

6  以上の認定事実をもとに、原告において、公社から排除しなければならないような矯正しがたい属性を有するか否かを考察するが、まず、飲酒運転による交通事犯に対する社会的非難が一段と厳しきを増し、これに対応して公社が交通安全の徹底を期していたにもかかわらず、これらを無視して飲酒運転を行つたことは遵法精神を欠くものと評価せざるをえない。しかしながら、事故当日、原告は、自動車を運転することを予期しないまま飲酒したところ、たまたま集中豪雨が来襲したため、勤務先の妻からの迎えの要請を受けて車を運転することとなつたもので、その時間には妻が帰宅に利用できるバス便がまだあつたのであり、運転の困難な豪雨の状況下にあるのだから、飲酒後相当の時間を経過しているので運転には支障がないだろうと判断したことはいかにも軽率であつたといわねばならないが、それでもなお動機において偶発的であつたということができ、原告には、昭和三七年に一時停止違反の前歴が一度あるにすぎないことを考え合わせると、本件と同種の事犯を敢行する反規範的な傾向があるとはいえず、再犯のおそれは薄い。本件事故は、いわゆる酪酊運転を直接の原因とするものとは認められず、通常減速することが考えられない立体交差点において原告の先行車が減速したことなど、事故の発生状況について原告に同情すべき余地がないではない。被告は、原告の取調べに際しての態度が悪かつたこと、所属局長へ事故後直ちに報告とあいさつをしなかつたこと、顛末書に反省を示す記載がなかつたことをとらえて、原告には改悛の情が認められないというが、警察においては原告ばかりを責めるのは酷と思われる行き違いがあつたこと、次の理由を全面的に是とすることはできないにしても原告は組合分会長の立場にあるため局長と原告個人のことで話しをしにくいと考えたこと、顛末書の記載は所属課長の指示に従つて行つたものであることといつたそれなりの理由があるのであつて、被告主張の右事実から直ちに原告には改悛の情が認められないとするのは妥当でない。原告は事故後直ちに警察に連絡しており、事故の翌日の組合大会においては、分会長の立候補を一度は辞退し、組合員の前で事故の報告を行い、また所属課長には事故の翌日に報告をしているのであり、なによりも被害者に対する示談に誠意を示し、示談金を完済し、被害者の宥恕も得ているのであるから、原告は本件事故を反省していると認められる。業務外に自己の所有の車を運転して惹起した事故であり、マスコミによる報道や批判も認められないのであるから、本件事故が公社の業務運営及びその社会的信用に与えた悪影響はほとんどないというべきである。原告の勤務成績は普通であり、約八〇〇名の職員を擁する組合分会の分会長をするなど職員間の信頼も厚く、処分の軽減を求める多数の嘆願書が寄せられているのであつて、人間関係においてもとりたてて不都合は認められない。被告は朝の安全会に原告が出席をしなかつたことをもつて、原告の規範意識の欠如を示すものと主張するが、安全会の出席は任意であるとされていただけでなく、組合は安全会の実施に対して反対していたのであるから組合の分会長の立場にある原告が会への出席を拒否することは肯づけるのであつて、右欠席をもつて、反規範的態度のあらわれとするのは当らない。

被告は他の同種事例における措置と比較することによつて本件分限免職の措置が相当であつたことが首肯されると主張する。まず飲酒運転を伴う交通事故で禁錮刑以上に処せられた一九件の前記全国例の事故の内容等は別紙(七)記載のとおりであり、一九件中一八件までは公社職員の身分を失つているのだが、それらは、実刑に処せられたものであるか(事例1、2、9、11、12、14)、執行猶予が付せられたものも懲役刑であるか(事例10、17、19)、死亡事故であるか(事例4、15)、無免許(事例7)、逃走(事例8)、贈賄申込(事例18)などの飲酒以外の事案を伴うといつたように、多くは本件事故よりも重大な内容のものであつて、単純な比較によりこれらにつき必ず身分排除されているからといつて、本件分限免職を相当とするには十分でない。また、被告は、分限免職と辞職承認とはその処置の評価のうえで実質的に寛厳の差がないとして、一九件中一二件にのぼる辞職承認の措置が本件分限免職と均衡を失したものでないことを説明しようとしているが、辞職承認はあくまで本人の自由な意思に基づいてなすものであり、意に反する免職である分限免職及び懲戒免職とは本質を異にするものであるから、辞職承認の例との単純な比較によつて、本件分限免職を相当とするには十分でない。次に四国管内において身分存続を承認された事例20及び3と本件事案を比較すると、事案の重大さという点ではほとんど差がなく、右二事例においてとくに身分存続を承認する理由とされた事実がそのとおりあつたとしても、勤務時間外において業務と関係なく惹起されたこと、事故の発生状況につき同情の余地があること、示談を完了して被害者の宥恕があることなど前記のとおり本件事案においても同様であつて、ことさらに相違をみつけ出すとすれば、右の二事例においては、改悛の情顕著とみとめられ、勤務成績優秀という点であるが、本件事案においても前記のとおり改悛の情は認められ、勤務成績は普通であるのであつて、この点だけをとらえて、一方を身分排除し他方を身分存続する扱いは不公平の感をまぬがれない。なお、事例3において、事故を契機に安全運転に対する職員間の意識が高まつたとするが、このような事実が身分存続を認める特別の理由となるとは思われない。

以上のとおりの諸般の要素(すなわち動機の偶発性、再犯のおそれの薄いこと、事故発生の状況に同情の余地があること、事故に対する反省も認められること、業務運営及び社会的信用に悪影響を与えていないこと、勤務成績は他より劣つていないこと、その他)を総合すれば、本件事故によつて示された原告の反規範的な性格は永続性をもたないものであるというべきであつて、原告において、公社業務の遂行に支障をきたすような矯正しがたい属性を有しているとは認め難い。

したがつて、このような原告に対してなされた本件分限免職の措置は、その余の点について判断するまでもなく、任命権者の裁量権の範囲を越えたものとして無効というべきである。

四  賃金等の講求について

1  原告が本件分限免職の措置のなされた当時、一か月三四、八〇〇円の基本給の支給を受けていたこと、引き続いて原告が公社職員の身分を保有し、本件事故に伴う休職(公社法三二条一項二号により原告が別紙(一)記載の期間休職となつたことは原告の自認するところである。)以外の減額措置を受けずに勤務していたとすれば、その定期昇給額及び仲裁裁定による基本給増額の結果が別表(一)記載の額となること、右免職処分以後の諸手当支給率が別紙(二)記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、右増額された基本給月額の昭和四四年四月から昭和五〇年三月までの総額が別紙(一)末尾記載のとおり五、一一九、二〇〇円となること、右基本給月額を前提としこれに争いのない諸手当支給率を乗じた諸手当額の合計が別紙(二)記載のとおり二、五九二、九六七円となることは計算上明らかである。

そして本件分限免職が無効であることは前記のとおりであるから、被告は民法五三六条二項により前記基本給及び諸手当額合計並びに昭和五〇年四月以降の基本給支払義務あることは明らかである。

2  もつとも、被告は、定期昇給及び仲裁裁定による基本給増額は任命権者の発令行為(意思表示)によつて行なわれるものであるところから、原告については右発令行為がないから賃金増額はないと主張する。しかしながら、本件のように免職が無効であるときは、当該職員については個別的な発令行為がない場合でも、規定・就業規則、労務慣行などにより特段の欠格事由が認められない限り機械的に定期昇給ないしベースアツプが行われるのが通常である場合には、当然定期昇給すべき時期に昇給し、ベースアツプがあつた場合にはこれに従つてベースアツプしたものと認めるのが相当である。なぜなら、被告の責に帰すべき事由により不当な免職の措置を受けた職員が、その効力を争つている間は、これと矛盾する賃金増額の発令を受ける余地がなく、そのため、事後、他の普通の職員と差別され当然受くべき利益を享受できないとすれば、それは極めて不合理であり、結果的にみて免職の措置の無効によつて被つた不利益を実質的には完全に救済されなかつたことに帰するからであり、さらに一般には賃金等の増額は使用者(任命権者)の意思表示が必要であるとしても前記のような規定・就業規則、労務慣行がある場合には使用者に裁量の余地はなく、当事者間にも右慣行等によることの暗黙の合意があると認めるのが相当であるからである。

これを本件についてみるに、〈証拠省略〉(被告公社の就業規則)によれば、「職員が前年度の勤務期間(四月一日から翌年三月三一日までの期間をいう。)を勤務したときは、定期昇給日にその職員に適用される基本給の幅の中において、昇給表に定める昇給額(昇給標準額)の昇給が行なわれる」旨就業規則七五条で定められていることが認められ、また仲裁裁定は関係当事者がその裁定の内容と同じ労働協約を締結したと同一の効力をもつて当事者を拘束し(公共企業体等労働関係調整法三四条、労働関係調整法三四条参照)、現実にも仲裁裁定の完全実施はほぼ慣行化していることは当裁判所に顕著な事実であるから、原告が引き続き勤務していたとしても、定期昇給及び仲裁裁定による基本給増額がなされなかつたであろうと認めるに足る特段の事情もない本件では定期昇給及び仲裁裁定による基本給増額分したがつて増額された基本給を基礎として算出された諸手当額についても被告に支払義務あるものというべきである。

3  被告は抗弁として仮処分に基づいて支払つた仮払い賃金を、原告の賃金請求権に弁済充当すべきことを主張する。しかしながら、仮処分執行により実現された状態は、仮定的・暫定的なものであり、その当否は本案訴訟における判定にかかつているのであるから、本案訴訟においては、その事実を斟酌することなく、いいかえれば仮処分の執行のなかつた状態を前提として、本案請求の当否を判断すべきである(仮処分による支払は、現実の執行の段階で調整されるべきものである。)から、被告の主張は失当である。

4  したがつて、原告は、被告に対して、昭和四四年四月から昭和五〇年三月までの基本給合計五、一一九、二〇〇円及び昭和四四年三月から昭和五〇年三月までの諸手当合計二、五九二、九六七円の合計七、七一二、一六七円の賃金等請求権を有するものであり、さらに昭和五〇年四月以降毎月一一二、七〇〇円の基本給支払を受ける権利を有するものである。

五  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対して職員としての地位を有することの確認並びに七、七一二、一六七円及び昭和五〇年四月以降本判決確定に至るまで一か月一一二、七〇〇円の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用し、仮執行免脱の宣言は相当でないのでこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 早井博昭 藤田清臣 富田守勝)

別紙(一)~(三)〈省略〉

別紙(四) 被告の職員の分限免職に関する規定(その一)

公社法三一条 職員は、左の各号の一に該当する場合を除き、その意に反して、降職され、又は免職されることがない。

一 勤務成績がよくないとき。

二 心身の故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えないとき。

三 その他その職務に必要な適格性を欠くとき。

四 業務量の減少その他経営上やむを得ない事由が生じたとき。

別紙(五) 被告の職員の分限免職に関する規定(その二)

就業規則五五条職員は、次の各号の一に該当する場合は、その意に反して免職されることがある。

(1) 勤務成績がよくないとき

(2) 第五二条第一項第一号の規定に該当して休職にされた場合において、同条第二項の休職の期間を経過してもなおその故障が消滅しないとき

(3) その他心身の故障のため職務の遂行に支障があり、またはこれに堪えないとき

(4) 禁治産者または準禁治産者となつたとき

(5) 禁錮以上の刑に処せられたとき

(6) その他その職務に必要な適格性を欠くとき

(7) 業務量の減少その他経営上やむを得ない理由が生じたとき

2〈省略〉

別紙(六) 被告の職員の分限免職に関する規定(その三)

一四九号通達

第2 免職

1 休業期間満了による免職〈省略〉

2 公労法第一八条の規定による免職〈省略〉

3 その他意に反する免職(懲戒免職を除く。)

(1) 任命権者は、職員が次の一に該当する場合は、その意に反して免職することができる。

ア 心身の故障のため職務の遂行に支障があり、またはこれに堪えないとき。(第一項第一号に該当するものを除く。)

イ 勤務成績がよくないとき。

ウ 禁治産者または準禁治産者となつたとき。

エ 禁錮以上の刑に処せられたとき。

オ その他その職務に必要な適格性を欠くとき。

カ 業務量の減少その他経営上やむを得ない理由が生じたとき。

(2)、(3) 〈省略〉

(4) 第一号のウまたはエに該当する場合は、公社より排除(懲戒免職、意に反する免職または辞職の承認)するものとする。 ただし、特別の事情により引き続き勤務させることが必要であると認めた場合において、別紙様式2により総裁の承認を受けたときは、この限りでない。

(5)ないし(7) 〈省略〉

(なお、右に別紙様式2とは「禁錮以上の刑に処せられた者(禁治産者または、準禁治産者の宣言を受けた者)の身分措置についての特別詮議書」のことである。)

別紙(七)

全国において、昭和四一年から同四八年八月までの間に、公社職員が飲酒運転を伴う交通事故により禁錮以上の刑に処せられた事例(末尾の番号はいずれも乙第二五号証の該当の番号である)

1 昭和四一年九月一七日勤務時間外に飲酒のうえ自家用車を運転し、歩行者をはね瀕死の重傷を負わせて逃走し、昭和四二年二月六日札幌地方裁判所で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により懲役一年および罰金五、〇〇〇円の刑を受け、同年三月一五日懲戒免職の処分が発令された。 (6)

2 昭和四二年九月六日勤務時間中に飲酒のうえ、勤務終了後公社車両を無断で持ち出して運転し、横断歩道を横断中の歩行者二名をはね傷害を負わせ、昭和四三年二月九日名古屋地方裁判所で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により懲役一〇月の判決を受けたが、それに先立つ昭和四二年一一月一日懲戒免職の処分が発令された。 (9)

3 昭和四二年一一月二九日勤務時間外に飲酒のうえ自己の乗用車を運転し、歩行者に衝突全治八ケ月の傷害を負わせ、昭和四三年七月二九日高知地方裁判所で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により禁錮一〇月執行猶予三年の判決を受け、同年一二月二五日身分の存続が認められ減給一月の処分が発令された。 (11)

4 昭和四二年一二月二三日勤務時間外に私用車を飲酒のうえ運転し、工事現場の路上で工事用トレーラーに衝突し同乗者を死亡させ、昭和四三年六月二五日静岡地方裁判所浜松支部で業務上過失致死および道路交通法違反の罪により禁錮一年執行猶予三年の判決を受け、同年七月五日辞職が承認された。 (12)

5 昭和四三年九月四日勤務時間外に飲酒のうえ自己の乗用車を運転し、交差点で右折車に衝突し、相手に加療一一ケ月の傷害を負わせ、昭和四五年二月二六日仙台高等裁判所で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により禁錮六月執行猶予三年の判決を受け、同年六月二日辞職が承認された。 (14)

6 昭和四三年九月二五日勤務時間外に飲酒のうえ軽四輪貨物自動車を運転して立体交差点を進行中、減速した先行車に追突し相手に加療約三ケ月の傷害を負わせ、昭和四四年二月一八日徳島地方裁判所で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により禁鋼六月執行猶予二年の判決を受け、同年三月五日分限免職の処分が発令された。 (15)

7 昭和四三年一二月二八日勤務時間外に飲酒のうえ無免許(失効)で自家用車を運転し対面進行の自転車に接触し、相手に五ケ月の傷害を負わせ、昭和四五年三月四日奈良地方裁判所で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により懲役六月執行猶予二年の判決を受け(控訴中)、同年六月二五日辞職が承認された。 (17)

8 昭和四四年四月一一日勤務時間外に飲酒のうえ軽トラツクを運転して自転車をはね、全治四〇日の傷害を負わせたまま逃走し、昭和四五年四月一日福岡高等裁判所で業務上過失傷害及び道路交通法違反の罪により懲役六月執行猶予二年の判決を受け、同年四月一六日分限免職の処分が発令された。 (18)

9 昭和四四年八月二一日飲酒のうえ自家用車を運転して帰宅中、交通取締り中の警察官をはね、さらにハイヤーに衝突し運転手乗客に傷害を負わせ、昭和四五年二月一六日東京地方裁判所で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により懲役六月の判決を受けたが、それに先立つ昭和四四年九月一二日辞職が承認された。 (21)

10 昭和四四年八月二九日勤務時間外に飲酒のうえ軽四輪貨物自動車を運転中、普通自動車に追突し相手運転手に加療四ケ月の傷害を負わせ、昭和四六年二月二三日前橋地方裁判所高崎支部で業務上過失傷害、及び道路交通法違反の罪により懲役一年執行猶予三年の刑を受け、同年三月四日懲戒免職の処分が発令された。 (22)

11 昭和四四年一二月二三日勤務時間外に飲酒のうえ軽四輪車を運転中、交差点で信号待ちのため停止中の普通自動車に追突し、運転者に加療約三ケ月の傷害を負わせ、昭和四五年五月一五日東京地方裁判所八王子支部で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により懲役六月の判決を受け(控訴中)同年同月二一日辞職が承認された。 (27)

12 昭和四四年一二月二七日勤務時間外に飲酒のうえ普通乗用車を運転中、国道上で歩行者に衝突死亡きせてそのまま逃走し、昭和四五年三月一六日福岡地方裁判所行橋支部で業務上過失致死及び道路交通法違反の罪により禁錮一年の判決を受け、同年三月三〇日懲戒免職の処分が発令された。 (28)

13 昭和四五年一月一三日勤務時間外に飲酒のうえ軽四輪貨物自動車を運転中、対向車線に進入して対向車に衝突し、同乗者に加療二週間の傷害を負わせ、同年七月二〇日山口地方裁判所で業務上過失傷害及び道路交通法違反の罪により懲役五月執行猶予三年の判決を受け、同年八月三日辞職が承認された。 (29)

1 昭和四五年二月二日勤務終了後、同僚と飲酒のうえ自家用車を運転し帰宅の途中、運転を誤り前方を走行中の乗用車に追突し、さらにその反動でセンターラインをオーバーして反対方向から来たバスに正面衝突し、七名に全治五日ないし三週間の傷害を与え、昭和四六年二月一三日東京地方裁判所で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により禁錮七月の刑を受けたが、これに先立つ昭和四五年五月九日辞職が承認された。 (31)

15 昭和四五年七月二五日勤務時間外に飲酒のうえ自家用車を運転中、運転を誤つて道路外に突込み、同乗していた同僚を死亡させ、昭和四六年一月一九日鹿児島地方裁判所川内支部で業務上過失致死および道路交通法違反の罪により禁錮六月執行猶予三年の刑を受け(控訴中)、同年四月一九日辞職が承認された。 (33)

16 昭和四六年三月二五日勤務時間外に飲酒のうえ、自家用車を時速約六五キロメートルで運転中、前方注視を怠つたため歩行者の発見がおくれ二名に衝突し、うち一名に全治六日、一名に全治一一日の傷害を与え、昭和四七年一二月七日札幌地方裁判所で業務上過失致死の罪により禁錮一年執行猶予四年の刑を受け、同年一二月一六日辞職が承認された。 (38)

17 昭和四七年二月二三日勤務時間外に飲酒のうえ自己所有の自動車を運転中、歩行者に加療約四週間の傷害を負わせ、同年七月七日長崎地方裁判所壱岐支部で業務上過失傷害および道路交通法違反の罪により懲役六月執行猶予三年の刑を受け、同年七月一〇日辞職が承認された。 (45)

18 昭和四七年九月五日勤務時間外に飲酒のうえ自己所有の乗用車を運転中、公開取締中の警察の停止の合図に気づかず走行したため、パトカーの追跡をうけ、酒気帯びと無免許運転として逮捕され、そのさい現金を差し出し贈賄申込みをし、昭和四八年一月一二日岐阜地方裁判所で道路交通法違反及び贈賄申込の罪により、懲役六月執行猶予四年の刑を受けたが、これに先立つ昭和四七年九月一三日辞職が承認された。 (49)

19 昭和四七年一〇月二八日勤務時間外に飲酒のうえ自己所有の乗用車を運転中、信号を無視しパトカーに追跡され、昭和四八年七月二三日名古屋高等裁判所で道路交通法違反の罪により懲役三月執行猶予二年の刑を受け、同年八月六日辞職が承認された。 (50)

四国通信局管内において、交通事故により禁錮以上の刑に処せられたにもかかわらず身分存続された一事例

20 昭和四二年八月三日勤務時間外に友人の車を運転してドライブの帰途、眠気をおして運転しコンクリート柱に衝突し、同乗者に左眼失明の傷害を負かせ、昭和四三年六月七日徳島地方裁判所川島支部で業務上過失傷害罪により禁錮四月執行猶予二年の判決を受け、同年一〇月四日身分の存続が認められ戒告の処分が発令された。 (8)

別紙(八) 飲酒運転による交通事故に対する被告の身分上の措置例(別紙(七)記載のものを除く)

番号

電気通信局

発令年月日

処分の程度

事故の態様、刑事処分等

四国

四三、一〇、二五

減給三月

ひき逃げ、罰金五万円、新聞に報道される(小松島の例)

近畿

四三、一〇、 二

戒告

国道わきの石材に衝突、二名負傷、罰金四万円

東京

四四、 八、二三

停職一月

取り締り中の警官をはねて負傷させ、さらにハイヤーに衝突、逮捕される

中国

四四、一二、二二

戒告

仮眠状態で暴走衝突、新聞報道

四五、 三、三一

戒告

道路横断中のものに衝突、新聞報道

信越

四五、 三、一五

戒告

めいてい運転、センターラインオーバー

九州

四五、 六、 一

訓告

無免許で交差点でタクシーと接触

四五、一〇、 七

戒告

信号無視でパトカーに追跡され逃走途中対向車と衝突、四名負傷、飲酒運転、スピード違反で逮捕、新聞報道

四六、 一、一九

戒告

出勤途上追突事故、飲酒運転現行犯で逮捕、新聞報道

10

東北

四二、一一、二二

戒告

交差点で父親に手をひかれて横断中の幼児を転倒させる

11

四二、 七、一七

訓告

停車中の自転車の荷台に接触、一名負傷

12

四四、 八、一二

訓告

交差点でタクシーと衝突し、飲酒運転現行犯として逮捕、罰金二万五千円

13

四五、 三、二六

減給一〇月

三回にわたり接触事故を起し、さらに被害者運転手を殴打、逮捕される、罰金四万円

14

四五、 三、三一

戒告

交差点で信号待ちの車に追突、四名に負傷、逮捕され罰金五万円、運転免許取消

15

四五、 九、一〇

訓告

国道上を無燈火、蛇行運転中を逮捕される

16

四五、一二、一七

戒告

センターラインオーバーにより対向車と衝突、負傷させる、罰金二万五千円

17

四五、一二、二四

戒告

泥酔運転で車両に衝突、水田へ転落させる、罰金三万円、運転免許取消

18

四六、 一、二〇

訓告

先行車が急停車したのを避けようとして電柱に衝突

19

四六、 一、一九

戒告

センターラインをこえ対向車に衝突、二名に負傷させる

20

四六、 五、三一

訓告

無免許であるのに警察官に虚偽通報し、上司にも虚偽申告をしていた

21

九州

四五、 一、二四

戒告

交差点で車の側面に接触、二重衝突事故を起し、そのまま七〇〇米進行し、飲酒運転、あて逃げとして取調べられる。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例